黒い影 と 白い女 【後編】 [恐怖体験]

前回の続き。

ただ、これは僕の体験ではありません。
僕の友人の兄の実体験です。事故の記録も警察署に残っている事実です。



ではでは


あの恐怖体験から1ヶ月くらいたった頃。
僕の友人がバイクの事故で入院しました。別に幽霊の仕業でもないただの自損事故でした。

友人のお見舞いに行った病院は市内でも結構大きな病院で、規律も厳しく午後8時以降は面会のできない規律でした。
そんな中、2人部屋の友人の部屋で午後8時以降に内緒で病院に忍び込み友人の病室へと向かいました。2人部屋なのですが、現在もうひとつのベッドは空いていました。友人には兄と姉が1人ずついて、その内の兄が僕の兄とも同級生でしたので、その繋がりもあり親しい間柄でした。どうでもいい話を病室でこそこそと話ていました。午後10時になり就寝時間に看護師さんが巡回して来ましたが、ベッドの下に隠れてその場を凌ぎました。骨折以外に体調に危険な症状がない友人の部屋には朝まで来ないそうなのです。



僕らが他愛のない話をしていた時です、僕の耳に何かが聞こえて来たのです。

“・・・誰か・・・”

最初は何なのか判りませんでしたが、その声が微かに何度も僕の耳に届くのです。
『お前、何か聞こえるか?』と僕は友人に訊ねましたが、友人には何も聞こえないようです。
気のせいなのかなぁと思いましたが、その後すぐにまた聞こえて来たのです。

その時、目の前に信じられないものを目にしました。
ベッドを挟んで向こう側にあるもうひとつのベッドの上に寝そべるように薄っすらと人影が見えたのです。
ドギッっとした僕は思わず凝視しました。先ほどから聞こえていた声の主はこの人影だったのでしょう。と思った瞬間その影が首を傾げるようにこちらに振り返りました。
『 ひぃ!!! 』
包帯でグルグル巻きになった顔を見て僕は思わず小さな悲鳴を上げてしまったのです。
どうした?と友人が聞くのですが、答えられません。
怖くて声が出ないからではないのです。金縛りにあったからでもないのです。
だって、そこで横になっている人影の顔が友人の兄貴の顔と瓜二つだなんて言えないでしょう。

僕は友人に兄貴は元気かと訊ねました。
「兄貴なら、お前が来る前までここにいたぜ」
『いた?』
「そう、ほら」と言って、卑猥な本を枕の下から出して来ました。「必要だろって言われても困るよな、兄貴にこんなのをもらっても・・・」
『で、その後は?』
「帰ったんじゃねぇか、どうして」
『どうしてって・・・・、ただ気になって』
「変だなぁ、お前」
『そうか・・・』

しかしその影は一向に姿を消そうとはしません。
・・・・
『お前の兄貴の携帯番号判るか?』
「わかるけど・・・」と言って、友人は黒い重そうな携帯を取り出しました。薄い緑の液晶にデジタルの文字が浮き上がりました。
「いいか」と言いながら友人が教えてくれた番号を鳴らして見たのですが、呼び出し音ばかりで繋がりません。
「どうした?」
僕は今の状況を話すことにしました。
『お前の兄貴が隣のベッドに寝てんだ、包帯グルグル巻きで。そして誰かを呼んでるんだ。でもその意味も判らないし。お前の兄貴に何か起こってんじゃないのか?』
冗談はよせと最初は言った友人も僕のこの力は知っていたので、家に電話してみることにしたのです。しかし友人の兄貴は家にはまだ帰っていませんでした。

何か胸騒ぎがすると思っていた時でした。先ほどまでいた友人の兄の影がふっと消えたのです。
『消えた・・・・』と僕は言葉を漏らしました。
「・・・そうか・・・・、ってそんな悠長なこと言ってる場合じゃないんじゃないのか」
友人の兄の事は気になって仕方がないけど、僕にはどうする事も出来ないのが現状でした。

それから10分くらい経ったでしょうか。
窓の外から救急車の音が微かに聞こえて来ました。その時、僕は一抹の不安を覚えました。その救急車のサイレンは徐々に大きくなり、友人の入院している病院の夜間救急出入り口付近で音が鳴り止んだのです。

・・・・これだ!

僕は確信を持ちました。
病室を飛び出して夜間通用口を通り救急車へと急ぎました。
救急車から担架ごと降ろされて運ばれて来た人は、やはり友人の兄貴でした。
全身が血まみれで上半身は裸、下半身もジーパンがズタズタに切り刻まれていました。

救急隊員が僕に話しかけて来ました。
「退いて下さい」
『僕の知り合いなんです、この人。』
「ご家族の方ですか?」
『違います、この人の弟がここに入院しています』と僕は言って、病室を教えました。
松葉杖を付いて友人も駆けつけました。

「兄貴~!!!!」
動揺を隠し切れない友人に救急隊員は言いました。
「ご家族の方に連絡してください、危険な状況です」
しかし、動揺している友人には無理な事。僕がすぐに携帯電話で友人の家に電話しました。その15分後くらいで友人の両親がやって来ました。病院の入り口で待機していた僕に「ケンジ君、ありがとうね」と声をかけて手術室の前まで一緒に向かいました。

数時間の手術が終わり、主治医が両親に「一命は取り留めましたのでもう大丈夫でしょう。ただかなり危険な状況には変わりませんので当分の間は入院生活になりますので、入院のお手続きを・・・では、失礼します」と言いながら、去って行きました。その後、包帯でグルグル巻きになった友人の兄貴が手術室から出て来ました。

「大丈夫ですよ、まだ麻酔が効いているだけですので・・・」と、看護師さんが家族が話しかける前に静止しました。
「2~3日は集中治療室になりますが、落ち着きましたら弟さんと同じ病室になりますので・・・、では」と言って、集中治療室に入って行きました。友人の母親は糸の切れた操り人形のように通路に崩れ落ちました。
お父さんが抱えて椅子に座らせました。

その時です。遠くから2人の男性が近付いて来ました。警察の方でした。
友人の兄は交通事故に遭ったそうでその時の状況等の説明に伺ったようです。
僕らは病室に戻りました。その後、両親が病室に訪れ事故の状況を説明してくれました。乗っていた車は大破になってしまい、衝突した衝撃でガードレールもカーブミラーも大破しているそうです。ブレーキの痕跡もなく激しい事故だったらしい。
それでも、友人の兄貴が死ななかった事にホッと方を撫で下ろした時、友人の父親が話しました。その話を聞いて僕の身体が硬直してしまいました。

「タケ、うどん屋の前のカーブで事故にあったみたいだったんだ。詳しくはタケに聞かないと判らないけど不思議な事を言っていたらしいんだ。俺達もここに来る時、国道を通ろうと思ったんだが、異様に渋滞していたから裏道で来たんだよ。まさかタケの事故が原因だったなんてな・・・」
どんな事を言っていたのか友人が聞いたが、お父さんは母親を残して「後のことは本人が回復して聞きなさい」とだけ言って病院を後にしました。
お母さんは緊急治療室の前の待合室で駆けつけた親戚と一緒に座り込んでるようです。

その出来事が起きて1週間くらい経った頃に僕は病院を訪ねました。
タケちゃんの意識が戻ったらしいので、聞きたいこともありお見舞いを兼ねて伺いました。

病室では清潔にされた身体で横たわるタケちゃんと友人が出迎えてくれました。
『オバちゃんは?』
「一昨日から仕事。さすがにそんなに休めないってさ」
そしてタケちゃんも傷だらけの顔でこっちを向きました。
「ぉぉ、ケンジ。色々ぁりがとぅな・・・」と弱々しい声でタケちゃんが話し掛けて来ました。
『いやぁ、俺は何にも・・・・』
そして、タケちゃんが事故の一部始終を話し始めたのです。



「ここを後にして、知り合いの家にCDを借りに行って帰ってたんだ。海岸線を通り過ぎてラブホ街を抜けた辺りで車の後部座席に何かを感じたからバックミラーで見たんだけど、別に何もなくて・・・・」
「また正面に目を戻したんだ、するとあそこのカーブミラーの所にさぁ・・・・、白い服を着た女性が立っていたんだ。そして俺を手招きするんだ。こっちに来いって感じで」

正しく、僕が先月あの体験をした場所ではないか!!

「手招きをされても、どう考えてみても変だろ、あんな時間に・・・・。でも道路を走るとどうしてもあのミラーの方へ進むしかないだろ?」
「そうだね」
俺も頷いた。

「近付くと、その女が女なのか判らなくなってしまって・・・・」
「兄貴、どういう意味なんだよ」
「だって、顔がなかったんだ・・・、その女。のっぺらぼうだったんだ」
僕は体中を小さな針で刺されたような刺激を感じた。ブルルルルルルと体中に鳥肌が立ち生唾を呑んだ。
タケちゃんの話は続いた。
「でも、俺の見間違いかもしれないと思う節もあるんだ」
「どうして?」
「だって、目があった気がするんだ。いや確かに遭ったんだ、あの時。なぁ、変だろ。やばいと思った俺はハンドルを握って切ろうと思った時に異変を感じたんだ。・・・ハンドルが全く動かないんだ。どんなに力を入れてもビクともしないんだ、ハンドルが。その時、目の前にいた女がガードレールの前に飛び出てきて・・・、そのまま跳ねてしまったんだ」

だから、ブレーキを踏む暇もハンドルを切った形跡もなかったのか・・・・。

「警察には居眠りだろ!と言われたけど、そんな訳ないだろと反論した。でも物的証拠がない以上・・・な・・・」
「で、で、女は」
「女はボンネットに激突して、思い切り跳ね飛ばした・・・と思う。その感覚はしっかりと残っているんだ」
「でも、警察はそのような痕跡は無いって・・・・」
「おかしいだろ!当事者の俺が言っているんだぞ!だから俺、事故った後携帯を探せなくて、歩いて公園の公衆電話まで行って電話したんだ。だって、事故って何分経っても一台も車が来ないんだから。で、電話した時に女を跳ねたって言ったんだ。」
『だから・・・』
「ケンジ、だから?何」
『いやぁ、何でも・・・』
「まぁいい。でも結局、その女は何処にも居ないし死んでもいなかった・・・。俺の独り相撲で片が付いたみたいだ。ただ、公衆電話を探すときに聞こえたんだ。“そっちじゃないよ”って」

僕は硬直した。
心臓がカチンカチンになった。
僕の時の最後の台詞と同じではないか!思わず動揺してしまいましたが、2人に悟られる事はなくホッとしました。




それから1週間で友人、1ヶ月ほどでタケちゃんは退院しました。
良かった良かった。それを最後にタケちゃんも僕もあの場所で恐怖体験をする事はなくなりました。

しかし、他の人が体験したそうです。


その事故現場近くにあるうどん屋さんに、頻繁に白い服を来た女性が来ていたそうなんです。
注文をするそうなのですが、女将さんが厨房に戻り振り返ると・・・誰もいません。それが数日続いて、そのお店は謎の一時閉店しました。
それから半年くらいしてお店は再開しました。

噂によるとお店全体をお祓いしたそうです。しかも女将さんは入院していたとか・・・・。
どんな怨念があるのか・・・。
その近くに慰霊碑があります。交通事故か何かの慰霊碑なのですが・・・。






・・・・

少しは寒くなりましたか?って、下手な文章で恥ずかしい限りですが、また他の話も掲載したいと思います。
明日からは、甲府の旅行記事をUPします。
ではでは(^^)


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